【その23】正解するカド前半戦を振り返った違和感について【考察かも】
関連前記事はこちら。
※0~6話までのネタバレを含みますので、未見の方はご注意ください。
TVアニメ『正解するカド』が第6話まで放送されました。先の読めないストーリーや、CGであることを忘れてしまうほど作り込まれたアニメーションなど魅力たっぷりの当アニメは、徐々に盛り上がりを見せ、総集編6.5話を挟んで後半戦へと続いていきます。
春アニメ残留率その後。「正解するカド」6話残留率は躍進してついに「106%」 春アニメで初めて100%超えを達成し残留率トップに躍り出ました。畳み掛けるような5話、6話で急上昇。今後の展開が楽しみな作品です。 #正解するカド https://t.co/XM5ajMdSL1 pic.twitter.com/NPxevFD1zC
— CK@デジモノに埋もれる日々 (@ckom) 2017年5月14日
ここまでで、個人的に気になったことについて考えてみたところがあるので、つらつらと書いていきたいと思います。
まず前提として、私は『正解するカド』の脚本を担当している作家・野﨑まど先生のファンです。野﨑まど作品がとても好きで、先生の作品を通じて感じていることがあります。それは、「何気ない描写でも少しでも気にかかるようなものについては不要なものはない」ということです。
野﨑まど作品は、野放しの伏線が多くあり、特に説明をすることはありません。「気付ける人だけ気付けばいいよ」とでも言うかのようなものですが、それでも無駄な描写はほとんどないように感じています。
だからこそ、この『正解するカド』においても、気になる点はどこかできっと何かと繋がっている。そう私は考えています。
また、Twitterで「正解するカド」と検索して感想などを見ていると、好意的な意見が多い中でも、「都合が良すぎる」「これは変だ」といった意見もちらほら見受けられます。
このような意見・指摘は、妄信的な視点から見てしまっている私にとってとても貴重であり、そのようなツイートのおかげで気付けたことも多くあります。そのうちの一つがこのあと書いていくものでもあります。皆様も今後是非気付いたことなどを積極的にツイートしたりしていただけると私が喜びますのでどうぞよろしくお願いいたします。
さて、前置きはこの程度にして、本題に入ります。
そういったことから、『正解するカド』における「都合が良すぎる」点や「変」な点について考えていきます。
第1話において、突如羽田空港に現れた超巨大立方体“カド”に対し、日本政府は適切な対応をしていきます。現状把握、人道に沿った方針を執り、有識者による検討・実験をしています。しかしそれらの対応はむなしいほど何も成果を得られず30時間が経過。もう打つ手は無いかと思われたその時に、謎の人物ヤハクィザシュニナが彼らの前に現れます。
つづいて第1話のラスト・第2話の冒頭で、ザシュニナは人類に語りかけます。これが、異方の力とのファーストコンタクトです。それに立ち会った人は動揺します。
第1話、21:25以降でザシュニナの声に反応する人々が描かれています。耳に手を当てる者(羽深など)、周りを見渡す者など反応は様々です。中でも特徴的なのが品輪彼方で、周りを見渡しもせず、耳に手も当てず、少し首を傾げる程度です。
会議室にいた人たちは一堂に同じ方向を向きます。その後羽深と犬束が映し出されますが、耳に手を当てていた羽深より先に、耳に手を当てていなかった犬束が映像に視線を戻しています。(ちなみにこの時点で徭はまだ出て来ていません、海外からちょうど帰ってくるところです)
これには明確な差異があります。その判断材料になるのが2話冒頭(0:45~)の二人のセリフです。
羽深「普通の音じゃない、耳元で突然発生したかのような……」
品輪「すごい! 脳に沁み込んでくるみたい!」
この二人のセリフは全く同じ現象に立ち会ったにも関わらず、表現の違いでは説明しきれない明らかな差異があります。
では、この差異は一体どこから生まれたのか。
二人がセリフを言った瞬間、それぞれ画面はツーショットになっています。
羽深・犬束のツーショット
御船・品輪のツーショット
このツーショットは、左側にいる人物は耳を押さえていた人物・右側にいる人物は耳を押さえなかった人物です。
これまでの違和感ある描写から、一つの仮定が生まれます。
「ザシュニナの声(=異方の力)に対する反応・影響は人によって差異がある」
ということです。
これについて
第2話、6:00~で、ザシュニナからの交渉の一般公開という有り得ない提案に対して羽深たちが戸惑う中、犬束はすぐに「全人類がこの事件の当事者である」と受け入れ、その提案を受けることを決めます。これは、一国の代表者の判断としては少し性急な判断であるように感じます。
これは、第5話におけるワムの製造方法の全世界公開を決断するところで明確になります。一国の元首程度がすぐに判断してはいけないものをあまりにも簡単に決断していると。それは、国連の反応を見れば明らかです。彼らは言いました、「暴走」であると。
第1話では適切な判断・対処が出来ていた首相をはじめとした内閣がこのような方策を執った原因は、異方の力におけるものではないでしょうか?
(第6話において、生物がカドに取り込まれた場合、カドの操作を徹底していても神経系に微弱な影響が出る可能性があるとザシュニナは言っています)
そしてその異方の力の影響は人によって差異があり、
異方の感覚を手に入れやすかった品輪はワムを作れる
その品輪よりワムを理解しているのが真道
なのです。
(ちなみに根拠はありませんが、ワムを理解できる候補者として、ザシュニナがまだ一度も会っていなかった品輪を選べたのは、最初にザシュニナが声を人に伝えた際に、その反応を何かしらの形でザシュニナが把握していたからなのではないかと思っています。)
(また、もしかしたら犬束がワムの製造方法を公開する決断した理由の一つに、犬束自身もワムが作れた、というのが考えられます)
では、その品輪よりもワムを理解できている真道はどうなっているのか。
第1話、11:58辺りで、ザシュニナは異方の力を用いて過度なコミュニケーションを真道に行います。それは脳に直接影響を与えています。真道もその深刻な影響に対して、(なんだこれは! なんだこれは! なんだこれは!!)と言っています。
(ちなみに第6話において、ザシュニナは真道を「カドによる処理を施した最初の人物」としか言っておらず、それは真道がカドの外に出るための処理であるとは言っていません。それよりも前に、カドを用いたと思われるこの過度なコミュニケーションが関係しているとも考えられます。そしてそれは「過分に成功した」。)
第1話の次のシーンではザシュニナが叫び始めます。それに対して恐ろしいほど察しが良い真道は「意思疎通の手段を模索している」と分かります。その後も各話において真道は恐ろしいほどザシュニナとの意思疎通が上手くいきます。その異常さは、近くにいる花森や徭の反応からも明らかです。
例:ザシュニナとの邂逅における花森の戸惑いと真道の全て受け入れた態度の差異
ザシュニナと真道があまりにも普通に話している事におかしさを感じる徭と感じない真道
ファーストコンタクトにおける意思疎通の難しさは他SF作品で多く表現されていますし、Febri vol.41に掲載された「正解するカド通信」での野﨑まど先生へのインタビュー内でも、
「異文化交流の際に、二者の間に大抵なんらかの障壁が存在します。」
と書いてあります。
しかし、ザシュニナと真道の意思疎通はあまりにもスムーズです。ではその理由は?
考えられるのは1つです。
異方の力によって真道は変わってしまった。
これは、能力に限った話ではありません。おそらく考え方・価値観も変わっています。
その根拠は、第0話~第1話冒頭での描写と第3話以降の描写にあります。
第1話冒頭において真道は、「自分の利益を勝ち取るのが交渉の目的だ。だが相手を打ち負かしてその場の利益を得ても、長い目で見れば必ずしっぺ返しが来る。双方に利益が生まれることが自身にとっても最大の利益なんだ」と言っています。それは0話での話で行動としても描写されています。
しかし第3話においては、ワムの拡散について、真道は産油国が反対しているという事態を予測しているのにもかかわらず、産油国(その他エネルギー産業)に対してのフォローを一切していません。これは真道の信念とは全く逆とも言える行動です。
更には、第6話において真道は自分が一切寝ていないことについて気が付いていませんでした。
あり得ません。
いかに物事に集中していようともこんなことがあってはいけません。
これらのことから、真道は少なくとも脳が根本的に変化していると考えられます。
以上のことから、違和感の原因でもあり第6話までのストーリーの重要人物でもある真道・品輪・犬束は、異方による影響を人よりも多大に受けていると考えられます。
これらが、私の考える正解するカドにおける現実的な判断・対応からかけ離れた「違和感」の原因です。
余談ですが、
真道・品輪・犬束という異方の影響が大きい人物に対して、影響をほとんど受けていない人物がいます。そう、徭沙羅花と花森瞬です。(特に徭沙羅花)
徭沙羅花・花森瞬はザシュニナのファーストコンタクトに立ち会っておらず、描写上もザシュニナを異方の者として適切に扱っています。
また、この二人は偶然なのか、「決定は閣議決定と同等の効力を有する」カド対策本部の代表交渉官と「首相相当」の権限を持つ異方担当特使です。
(ついでに言うと、メインキャラにも関わらず第6話まででストーリー上の目立った活躍がありません。)
きっと彼らが後半戦において重要な役割や活躍を見せることになると私は考えています。
考えれば考えるほど多くの考察や可能性が浮かび上がってくる『正解するカド』は間違いなく今後も面白くなるアニメです。
是非後半戦も一緒にその行く末を見守っていきましょう!!